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おごおり四季彩々
横隈早馬祭
横隈早馬祭は、「横隈隼鷹神社の例祭の行事で、事前に当番の組内全員で二個の早馬がつくられる。(中略)この行事は、七、八百年の昔から行われてきたと伝えられ、無病息災と五穀豊穣を祈願する行事である。」(小郡市史3巻より引用)と記されています。かつては12月16日に行われていましたが、現在は11月の第3日曜日に行われています。なお、平成10年(1998)に市指定無形民俗文化財に指定されています。
平成27年度は馬作りと早馬祭を取材させていただき、本年(平成29年度)は、早馬祭の準備である稲刈りの作業から取材させていただきました。
≪早馬作りに使用する藁の稲刈り≫
横隈の早馬はその年に収穫された稲藁でつくられます。平成29年は10月25日に行われました。
稲刈りは旧筑前街道から東に入った田んぼで行われました。ちょうど明願寺の裏手辺りになります。昨年までは宝満橋西側の田んぼで収穫していたそうですが、今年はこの場所になったそうです。
私たちが到着した午前10時には既に6名ほどの男性が稲刈り作業を行っていました。早馬2頭を作るための稲藁は1反の田んぼから収穫されます。稲刈り機1台で稲刈りを行い、その後2~3名で稲を束ねていきます。稲刈り機は横隈区のものです。
稲藁を束ねたものをコンバインに投入し脱穀します。脱穀した後に、稲藁を3つ束ねて田んぼに干すようにします。1反の田んぼで収穫された稲藁を束ねた光景は三角屋根の小さな家が立ち並んでいるようでした。
通常の稲刈りは10月の体育祭前後に行うそうですが、今年は雨天が続いたので10月25日になってしまったそうです。また、稲刈りの日はそれだけで終了するのが通例なのですが、今年は脱穀も同日に行われました。これは脱穀予定日の天気予報が悪く、前倒しして作業を行ったものです。
≪藁すぐり≫
10月27日に稲刈りをした田んぼで藁すぐりが行われました。藁すぐりは、早馬を作りやすいように、藁の下葉(はかま)を除去する作業です。私たちが到着した午後4時過ぎには既に10名ほどの人々が作業を行っていました。稲刈りは男性のみでしたが、藁すぐりには女性2名が加わっていました。稲刈りの時のメンバーとは若干違い、区の役員さんを中心とした構成でした。当初予定されていた明日(10月28日)が、台風の影響で雨が降る確率が高いので、急遽参加可能な人々を集めて作業を行っているとのことでした。
藁すぐりは、1台の足踏み脱穀機と、軽トラック荷台に備え付けられた藁すぐり専用機2機で行われました。足踏み脱穀機を回す役割は「エンジン」と呼ばれます。稲刈り後の乾いた稲藁ですが、直径15㎝前後の藁束を足踏み脱穀機に当てると想像以上の負荷が掛かります。「エンジン」役はかなりの重労働ですので、交代しながら作業を行います。
干していた藁の三分の二弱を藁すぐりしたところで本日の作業は終了しました。残りの藁は、軽トラックで公民館の大広間に運ばれ、後日、藁すぐりを行うとのことでした。
11月11日に公民館で藁を柔らかくする作業が行われました。かつて早馬で使用していたもち米の藁は柔かったそうですが、普通のお米に代わってからこの作業は欠かせないそうです。
≪早馬つくり≫
馬作りは11月12日(日)に横隈公民館で行われました。H27年の取材時は、横隈区北側の隣組数組が当番になっていましたが、今年度は南側の隣組数組が当番でした。地元の方から「現在、横隈区の隣組を、上(北側)・中・下(南側)の3つのグループに分けて早馬祭を行っています。5、6年前までは、隣組3組ずつで当番を交代していましたが、負担が大きいので現在の仕組みになりました。」と教えていただきました。
当日の参加者は、公民館前広場に男性20名くらい、女性28名くらいで、公民館の台所では女性12名くらいの方がいらっしゃいました。平成27年には縄を綯う作業は男性だけでしたが、今年は女性も縄を綯っていました。今年は「下(南側)」が当番ですが、4名の神社総代や区役員などの早馬熟練者は指導的な立場で早馬作りを行います。
以降時系列で早馬作りをご紹介します。
午前7時30分頃
座元である深町神社総代より挨拶があり、続いて白木福實総代より一般住民たちに稲藁から上〆の部位になる基本の藁を綯う説明がなされました。作業に掛かる前に、清めのお神酒・塩・いりこが天本神社総代により全員に配られ、一般住民による藁を綯う作業が、ブルーシートが敷かれた公民館前の駐車場で始まりました。上〆を綯う作業は難しい作業なので、白木益男神社総代、白木福實神社総代、深町神社総代ほか2名により行われました。
午前7時45分頃
早馬熟練者らによる万力を使っての馬本体2頭の作成が始まりました。横隈の早馬は中心部に男笹、稲穂、大豆、砂を入れます。前日までに刈り取りされ干された稲藁が6重に巻き付けられ、最後に上〆が巻きつけられます。ポイントは4回目で、その時に両端の藁の一部を折り返して巻き付けます。4回目以外は5本の仮締め縄を使いますが、4回目は折り返すので7本の仮締め縄で締めなければなりません。
中心部がずれてしまうと、早馬がバランスを崩してしまうので、中心部に割り箸などを刺して分かるようにし、また、その割り箸などに巻いた回数を記しておき何回巻いたかを確認出来るようにしています。早馬を締める際には、馬を万力上で前後にずらしながら、杵で叩きます。これはより馬になる藁を締めるために行います。また、巻いていく藁がねじれないように注意しなければなりません。非常に力が必要で、神経を使う作業ですが、年一回の行事でもあり、和気あいあいと進められました。
午前10時20分頃
出来上がった上〆を綺麗に整える作業が始まります。これは上〆のねじれを伸ばし、また、飛び出た藁をはさみなどで剪定し綺麗にするものです。上〆は公民館前の電柱に巻き付けられ、10名前後の参加者により伸ばされ剪定されました。
午前11時10分頃
馬が上〆を巻き付けるために作られた機材の上に載せられて、上〆を巻き付ける作業の開始です。上〆は、馬を回しながら胴体に巻き付けられます。1回転したら男結びのような、大きな結び目の出来る結び方で締められます。これは大変な力が必要で、ベテランで力のある男性が4~5人以上で行います。このようにして7本の上〆が胴体に巻き付けられます。
午後12時10分頃
1頭目の上〆が佳境に入ったところで昼食休憩となりました。平成27年度は公民館内の三間続きの座敷でのみで昼食が提供されましたが、今回は、大広間に机が並べられ、手の空いた人から食事を取りました。また三間続きの座敷でも食事が提供されていました。食事の献立は、かしわご飯・豚汁・しめ鯖の入ったなます・たくあん・煮た大豆などで前回とほぼ同じでした。私たちにまでご提供いただき、感謝するとともにたいへんおいしく頂きました。
午後1時頃
上〆を巻いた馬から順に、白木益男神社総代による馬の剪定(馬の化粧)が始まりました。白木益男神社総代は本業が畳屋であり、馬の鬣部分を剪定ばさみで、両端を藁切包丁で巧みな技を駆使し馬を綺麗に整えていきます。
午後3時頃
2体の早馬が完成し、公民館の大広間舞台に飾られ、作業した場所では片付けが始まりました。早馬は来週の祭り本番まで飾られています。
≪早馬祭≫
平成29年11月19日(日)に早馬祭が行われました。午前9時前に私たちが横隈公民館に到着した際には、9名の区役員や神社総代が集合されていました。公民館の演壇上に祀られた2体の早馬の前で、神事に必要な奉納物の準備について話し合いが行われます。御幣に紙垂を巻き付けるための苧麻(ちょま)や供物は地元の白木ストアーから調達されます。
午前9時10分頃から準備が始まりました。
- 壇上の御幣・・・早馬の真ん中に挿されている御幣2本は早馬用。他の4本は玄関取り付け用。
- 壇上の注連縄・・・神事が終わり、早馬が公民館玄関から出発する際には、御幣が注連縄に取り付けられて玄関上部に架けられる。
- 青竹・・・御幣を付ける。壇上の御幣は青竹に取り付けてある。
- 苧麻の皮・・・青竹に御幣を付け固定する際のヒモとして使う。
- 榊・・・玉串用で隼鷹神社に自生しているのを使用。
準備は午前10時45分頃に完了しました。
午前11:40頃
公民館に担ぎ手である横隈区12組から16組の男性が集まり、同じころに宮崎宮司が到着し、御幣作りを行いました。宮司が作成した御幣は早馬に挿されます。
神事は午前11時55分頃より始まり、およそ60名が参列しました。神事後に浦区長さんや神社総代さんたちによる早馬祭についての説明や注意事項がなされました。早馬巡行の際の作法は「ヨーイヨイ、ヨーイヨイ、(早馬を訪問先の玄関などで2回突き早馬に御神酒をいただく) ヨーイヨイ、マットセ、ヨーイヨイ、マットセ、祝って三献(最後に八の字に手を広げて3回拍手)」です。
その後直会で御神酒、スルメ、昆布をいただき、公民館前を塩で清めます。
午後12時40分頃
早馬の担ぎ手である男衆が、宝満川で禊をするために宝満橋方面へ歩いて移動します。(この時に早馬は公民館で待機。)宝満川に着いた男衆は、順番に川に入り冷たい川の水を浴びて「禊」を行います。平成29年11月19日は平年よりもかなり寒く宝満川の水もかなり冷たかったです。「禊」が終わり公民館へ戻ります。
午後1時頃
男衆が20名で1組になり、2頭の早馬を隼鷹神社に奉納します。早馬は6名の男衆により担がれます。かなりの重さなので交代しながら神社へ向かいます。約20分掛けて早馬は隼鷹神社に到着し、拝殿で奉納されました。奉納時も「ヨーイヨイ、ヨーイヨイ」と掛け声を掛けて、早馬を床に2回突きます。
午後1時30分頃
公民館前に戻った早馬は、上〆を解かれます。また横隈区内を巡行する準備として、区内北側を巡行するグループと南側を巡行するグループに男衆が別れます。解かれた上〆は各家の屋根の上にかかげて魔除けとします。
午後1時35分頃
2頭が南北に分かれて横隈区内巡行が始まりました。北側のスタートは「白木のいちご」、南側は「レーブド・ベベ」でした。
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午後3時50分頃
南側の早馬が、約40軒の家々を巡行し横隈公民館に戻ってきました。それより少し遅れて北側の早馬も戻ってきました。戻ってきた早馬は、出発した時よりも小さくなっています。これは早馬が、途中お神酒や勢い水を吸い込み、かなりの重さになり巻き付けた稲藁を外すからです。
午後4時00分頃
早馬の解体がはじまりました。早馬の中心部にある大豆、男笹、稲穂を住民の方々は各自持ち帰ります。これを家の玄関に1年間飾って無病息災などの魔除けにします。翌年の早馬祭には、また同じく持ち帰ったものと取り替えるそうです。
最後に、「お楽しみ抽選会」が催され大勢の人々が集まり、日用品などの商品を持ち帰りました。
平成27年度に続き、今年度は稲刈りの段階から取材させて頂きました。稲藁を使って馬を作る祭りは、かつては他の筑後地区でも見られましたが、今でも続いているものは非常に貴重です。これからも、地域の方々の交流の為にも続けて頂ければと思いました。
最後になりましたが、複数回にわたる取材を快く受けて下った横隈区の役員の方々、神社総代の方々、地域住民の方々に深くお礼と感謝を申し上げます。
<早馬の巡行経路(参考)>小郡市教育委員会提供